君が好きだから嘘をつく
「楓、ちゃんと話せよ」

真剣な顔で見つめられて、その瞳に合わせていた視線を少し右にずらして言わなければいけない言葉を小さな声で放り投げる。

「言ったでしょ、もう限界だって」

「だから?」

「だから・・・全部新しくやり直したいの」

「全部やり直したいからって転職なのか?」

「そうよ!」

健吾の勢いに負けないようにグルグル回る思考の中で、なんとか答えを返そうと心が追い詰められる。

「何でだよ?そこまで思っていたなら言えばいいだろう?俺達そんな仲かよ?会社辞めたいって思うほど嫌だったのかよ?だったら言えよ、俺に」

苦しそうに言葉にする健吾を見ていると涙がこみ上げてきそうになる。でも今泣いたらだめだと眉間に力を入れて健吾の言葉を受け止める。

「あれから話したり一緒にいる時間が無くなったりしたけどさ、俺は俺で楓のこと考えていたよ。楓が転職考えていたなんて気付かなかったけど、一言の相談も無しかよ。確かに今まで嫌な思いさせたかもしれないけど、お前の退職朝礼で知らされる位俺は嫌われたのか?」

最後のほうは言葉の強さも込められていなかった。
こんな風に健吾に言われると思わなかった。もっと責められると思っていたのに・・
友情を裏切って、気持ちを無視して、勝手な行動をとった私を責めて嫌われて終わりにしたかった。
それなのに健吾はこんなに苦しそうな顔をしている。

「うん・・ごめんね」

言ってはいけない言葉が出そうになるのを堪えて、なんとか今健吾が感じている気持ちを肯定する言葉をつぶやく。
そんな私の最後の嘘を信じてくれたのか、健吾は俯いてため息をついた後顔を上げて視線を合わせ小さく何度も頷いて、

「ん・・そっか、分かった。俺こそごめんな・・」

重い表情でゆっくりと途切れ途切れ言った。

   -これで本当に終わりなんだー

指先が小刻みに震えた。それを隠すように手を握って身体の中心に力を送り自分を支えた。
今はまだ崩れないように、この嘘がばれないように。

「うん」

頷いた私を見ると健吾も頷いて、

「じゃあ・・戻るか」

気持ちを切り替えるように笑顔とは言えない悲しそうな微笑を見せた。その表情には悲しくなる位気遣いも感じた。

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