君が好きだから嘘をつく
「何ですか?」

面白がる様に咲季に合わせて小声で囁いて、身体も寄せてきた。

「ねぇ、澤田くんはどう思う?山中くんの様子」

「健吾ですか?」

そう言いながら健吾の方に視線をやり、すぐに咲季の方へ戻してきた。
そして苦笑しながら腕を組んだ。

「楓が辞めて山中くんはいつもと変わらないようにいているけど、私は明らかに違うと思うんだ。澤田くんはどう思う?」

周りに聞こえないように小声で聞く。

「う~ん。僕もそう思いますよ」

私が小声で話しているのに澤田くんは気にせず声を落とさないから思わず焦る。

「ちょっと!」

そう言いながら分かるように、『シッ!』とジェスチャーする。それを隼人は面白そうに笑顔で見ながら、分かったと頷く。

「すいません」

「もう、近くにいて聞こえちゃうから声落としてよ」

「はい」

分かっているのか・わざとなのか変わらず笑顔で返してくる。そんな人をからかう様な隼人の態度は慣れているので、そのまま会話を続ける。

「山中くんの気持ちが気になってさ。あれから楓は『もう諦めたから』なんて言うけど、今の山中くんを見ていると本当にこれで終わりなのかな?って思って。山中くんに違和感を感じるけど、それが何か分からなくてさ。澤田くんはどう思う?」

「そうですね、変わらない様子を装っていますけど。まあ今井さんも気になるなら、せっかくなんで本人に聞いてみましょうか」

「えっ?・・うん。うん、聞きたい」

爽やかな笑顔を見せてそう言った隼人に一瞬惑ったけど、そうできるならそうしたいと思った。
有言実行で隼人は咲季の返事を聞くと、すぐに席を立って健吾の元へ歩いて行った。

「健吾、飲みに行こう。今井さんも誘ったから」

「あ?今日?」

「そう、今から。お腹空いたから早く行こう、今井さんもすぐ行けるって言うからさ」

急な誘いに健吾の戸惑いも無視するように隼人は自分のデスクに戻り、手に持っていた資料を引き出しにしまう。そんな風に飄々と行動できてしまう隼人を見ながら、咲季も帰宅の支度をする。

「分かったよ・・じゃあ」

そんな空気に流されるように、健吾もデスク上を片づけ始めた。
そんな様子を横目に見ながら、『お余計なお世話してゴメン!』っと心の中で楓につぶやき、この後どうするか考えた。
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