君が好きだから嘘をつく
「あら~!いらっしゃい」

「こんばんは」

ため息をつく健吾に代わって隼人が笑顔で迎えてくれたおばちゃんに挨拶をした。

「久しぶりね~。また来てくれるのを待っていたのよ、嬉しいわ。こちらのお嬢さんも会社の方?」

そう言って咲季に笑顔を向けて尋ねた。そんな笑顔に答えるように咲季は自己紹介する。

「初めまして、今井咲季です。職場でよくお店のこと聞いていたので、今日は無理行って連れて来てもらっちゃいました」

「そう、ありがとうね。ゆっくりしていって。じゃあ奥の席が空いているからどうぞ」

咲季の肩を優しく押しながら、健吾と楓が使っていた奥にあるいつもの席に案内してくれた。
そんなおばちゃんに咲季は初対面から親近感を持つことができた。目の前で優しくしわを寄せながら笑顔を見せるおばちゃんも2人のことを長い間見てきたのだろう。この思い出いっぱいの空間で話し合いの準備態勢を咲季はとりあえず作った。その場を仕切り、自分の横に隼人を座らせ、目の前に健吾が座るようにうまく誘導した。

「いいお店だね、もっと早く連れて来てもらえばよかったな。山中くん結構な常連なんでしょう?」

「まあ・・帰りに飯食いによく寄ってます」

「そっか~、おすすめは何?」

「何でも美味しいですよ。特に煮物は何でも」

ここに来るのを嫌がっていたけど何とか話をしてくれる。このままうまく今考えていることを話してくれるといいんだけどな・・。そんなことを考えていると、おばちゃんが温かいおしぼりを運んでくれた。

「はいどうぞ、お疲れ様寒かったでしょう?」

そう言いながら私におしぼりを手渡してくれた。広げて手のひらに乗せるとじんわり温かさに包まれた。
そして差し出されたメニュー表を見ながら、塩もつ鍋・揚げだし豆腐・かぼちゃのサラダ・から揚げ、それとビールを注文した。すぐにビールとお通しの白和えを運んでくれて、おばちゃんの前でとりあえず乾杯。

健吾に構えてほしくないので咲季はビールを喉に流しながら、仕事の話や会社の人の噂話などの話題を振った。そして次々に運ばれてくる料理の味を堪能しながら、このお店の中に楓がいた様子を想像する。
いつもここで2人は向き合ってきたんだな。すごく温かくて居心地の良さを感じる。楓が大切にしていたこの空間。なのに今・・彼女はここにいない。彼はそれをどう感じているのだろう・・・。
そんな咲季の考えを察知したのか、健吾は2人から視線を外しながらポツリと言った。

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