君が好きだから嘘をつく
「それで?俺に何を聞きたいのですか?」

声のボリュームは小さいけど、不快感は明確に感じる。

「ん?」

首を傾けながら軽くとぼけると、健吾は視線を上げて視線を合わせてきた。
その瞳はいつも見せていた爽やかさはなく、疑いの混じった鋭さも含まれていた。

   -あ~こうゆう目つきもするんだ・・-

いつもからかった時に見せる健吾の爽やかな表情とは違う陰の部分を見れた気がした。

「聞きたいことがあるから、ここに来たんですよね?」

「そうね」

はっきり言った健吾の言葉を聞き、取り繕うのを止めて自分の気持ちを整えて本題に入ることを決意した。
隣にいる隼人に視線を向けることなく目の前にいる健吾を真っ直ぐ見て、直球で聞いた。

「楓がいなくなってどう感じている?」

「どうって?」

唇だけ動いて表情は変わらない。でもその瞳にはきつさが増しているように感じる。本当は言葉で触れて欲しくない内容なのだろう。

「寂しい?」

「そんなこと答えなきゃだめですか?」

「うん、聞きたい」

「寂しいとか寂しくないとかそんなものはないですよ」

「それだけ?」

「はい、それだけです」

静かに答える健吾の言葉を正面から受け止めようとするのに、本音を言おうとしない。

「あいつが辞めたくて辞めたのだから、それでいいと思います」

「は?」

予想外の答えに首を傾けながら彼の顔を凝視する。最近の様子を見てきて何かを感じているはずなのに、強がりなのかそんな他人事のような言葉を耳にして一瞬むかつきを感じた。それでも彼の本心を知りたくて一歩引いて言葉を続ける。

「本当にそう思っている?私にはそうは見えなかったけどなぁ。楓がいなくなった環境は山中くんにとってすごく重く感じているんじゃないかって思えたけど。あれだけ仲良かったんだからさ、辞めたくて辞めたなんて山中くんは割り切れていないんじゃないの?」

「それでもあいつは俺のせいで辞めたのだから、割り切るしかないんですよ」

その言葉に彼の気持ちの隙間が見えたように感じた。
どうでもいいという感情ではなくて、彼も心に言い聞かせている。今、本当の気持ちを聞くことができると確信した。

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