君が好きだから嘘をつく
「わかりました。じゃあ、俺達行くから」

「え・・でも」

状況が飲み込めず英輔に戸惑いの視線を送ると、英輔はそっと楓の耳元にささやいた。

「ちゃんと話して来いよ」

そして歩き始め、同僚達に『行くぞ』と言いながら飲み会の会場の方向へ歩いて行った。
楓は行ってしまったみんなの後姿を見ていたが、未だに状況が理解できず気まずくて、何となく視線を泳がせた。そんな楓をじっと見つめ、優しく名前を呼んだ。

「楓」

「うん?」

戸惑いと複雑な感情で、健吾の顔が見れない。

「やっと・・会えたな」

「・・・ん」

うつむいて視線を落としたままでいると、健吾が一歩近寄った足先が見えた。
その瞬間右手を握られて、そのまま引っ張られるように歩き始めた。

「え?何?」

聞いても何も答えてくれない。それでもそのまま歩き続けている。
ギュッと手は握られたまま、前を歩いていく健吾に動揺しながらもついて行く。

   -なんで私達、手をつないで歩いているの?-
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