君が好きだから嘘をつく
つながれた手は解かれることなく強く握られている。
でも振り返ることなく歩き続ける健吾の後姿を見ながらひたすらついて行く。
どうしていいか分からなくて、『健吾』と呼んだら振り向いて流し目のように一瞬私と視線を合わせて、また前を向いてしまった。
でも、さっきまで強く握られていた右手は、優しく包まれるように握り直してきた。そしてそのまま歩き続けて駅に着き、改札を通る。ホームに立つと同時に電車が来て乗り込んだ。
帰宅ラッシュの時間帯の為、健吾との距離が近くなる。
さっきまで後姿しか見えなかったのに、今度は向き合って密着している。目の前には健吾の胸元があって、電車が揺れる度にその胸元に顔を寄せてしまう。健吾にくっつかないように離れようと足元に力を込めても、電車の揺れと周り混雑に負けてしまう。
すると健吾が頭上からささやいた。

「大丈夫、寄りかかってて」

そう言って私の背中にそっと手を当てて支えてくれた。
今までも混雑時にこうして支えてもらったことはあったけど、今の健吾は何か違う気がする。
私が動揺しているからそう感じるのかな。でも支えてくれるその手の優しさみたいなものが何か包まれているような感じで、恥ずかしくて正面すら見られない。
そうして健吾に支えられながら戸惑いの時を過ごし、何度目かの停車を繰り返していると、また頭上から声をかけられた。

「行こう」

健吾はそう言って私の背中を軽く押し、電車を降りるとまた私の手を握り歩き出した。
ホームを歩きながら周りを見ると、私の降りる駅だと今更ながら気がついた。
そしてまた健吾に連れられるかのように歩き改札を出る。
どう考えてもうちへの帰り道。何?私送ってもらっているの?

相変わらず状況が読めず、ただ健吾について行く。
でもさっきより握られた手の力も、引っ張られる強さも違う。そして歩く早さも。
それを感じてそっと健吾に聞いてみる。

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