君が好きだから嘘をつく
「・・どうした?」

私の身体の変化を敏感に察知したらしく、健吾は行為の途中で熱の帯びた顔をしながら私の顔を覗き込んで、かすれた声で聞いてきた。その表情にすら恥ずかしくなる。

「ううん・・何でもない」

首を振りながら息を整え笑顔を作りごまかそうとしたが、健吾は優しく聞き返してきた。

「何?言ってごらん。今はやめたい?」

私の髪を優しく撫でてくれる。ここまで来たのに、私が迷っているのかと気遣ってくれている。その様子に心が揺れる。

「・・笑わない?」

「ん?」

「呆れない?」

「何?言ってごらん」

私が言い出すのを待っていてくれているのが伝わってきて、素直に感じている不安を伝えてみる。

「あのね・・・いい歳してバカみたいだけど、不安・・っていうか」

「うん」

「あの・・えっと・・こういうのずっとないから。いや・・初めてとかそういうことじゃなくて。んっと・・」

もうどう伝えていいか分からなくて、バカみたいにしどろもどろになる。もう恥ずかしくて、健吾の顔も見れず自分の顔も見て欲しくなくて、両手で顔を覆う。

「えっ、楓・・」

健吾も動揺を見せる。

「あの、ずっとなかったから・・緊張するって言うか・・あ~もう・・」

「誰とも?」

「だって・・・健吾しか好きになれなかったから・・誰かとするとか・・そうゆうのは・・」

その先を言う途中で、健吾に引き寄せられて起き上がり抱きしめられた。
そしてため息が聞こえ、私の肩に健吾の顔を寄せて耳元にささやいた。

「ごめん、俺嬉しいかも」

「えっ?」

その言葉に健吾の顔を見ようとしたら、更に強く抱きしめられて身動きが取れない。

「だめ。今俺の顔見るな」

「何で?」

「いいから、見るな」

そう言って力を緩めてもらえず暫く抱き合ったままでいた。
そして解いて貰えたと思った瞬間、食むようにキスされて、そのまま押し倒された。

「っん・・あっ・・・けん・・」

名前すら呼ぶ隙を与えてくれず、どんどん深いキスを繰り返し舌を絡めて、飲み込めずこぼれ落ちる唾液もまた健吾は舐め取る。その舌と唇はまた私の身体を這い回り、首筋や鎖骨・そして胸へと甘い痛みを与え痕を残す。その痛みを感じる度に、幸せを感じてしまった。
そして健吾の手や指が私の全てを刺激する。

「はぁ・・」

「楓・・」

健吾の艶かしい吐息や声を聞きながら、身体全体で与えられるしびれるような快楽に呑まれていった。
そして優しいキスを落としながら、やっと私と視線を合わせ甘くささやいた。

「楓、好きだよ」

「うん・・好き」

「全部・・俺のだ・・」

「うん、全部」

そう答えると身体を引き寄せられ、また包むように抱きしめられた。

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