君が好きだから嘘をつく
「悪い、待たせたな」

その声が聞こえたのだろう、

「ちょっと山中くんに代わって」

咲季先輩が楽しそうに言う。
また何言うのかな、からかうのは間違いないと思い、健吾に心で『ゴメン』と思いながらスマートフォンを渡す。

「健吾、電話」

「え?誰?」

「咲季先輩」

突然渡され健吾は戸惑いながらも受け取り耳にあてている。

「もしもし、おはようございます・・・」

やっぱり不意打ちで驚いたのだろう。言葉がたどたどしい。

「はい・・・いや、すいません。はい、じゃあ今度・・・はい、行って来ます」

健吾の困った顔を見て咲季先輩がからかっているのが分かる。
健吾からスマートフォンを受け取ってもう一度電話に出ると、咲季先輩はやっぱり楽しそうな声だった。

「もしもし」

「あ~楓?山中くんに、何で私も誘わないの?次は連れて行ってよってからかっちゃったから謝っておいて、冗談よって。でもさ楓、本当に楽しんできてね。あまり長話しても悪いからまた月曜日!行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

電話を切るとすぐに健吾に咲季先輩のメッセージを伝えた。

「健吾にからかってゴメンネだって」

「ああ、今井さんも行きたいって言っていたから今度みんなでどこか行くか」

「そうだね、楽しそう」

2人で笑ったところでまだ車を出発していないことに気付いた。

「ごめんね。電話待たせちゃったね」

「ああ、大丈夫だよ。じゃあ行くか」

そしてエンジンをかけると今度こそ海に向かって走り出した。
週末で道が混んでいたが、2人の会話は止まることなく車内に流れる音楽も心地良い位のボリュームに落としてあった。

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