君が好きだから嘘をつく
コーヒーを口にして健吾を見ると目があった。
少し微笑んで私の隣に座ると、またタバコを1口吸って海を見つめる。
その横顔が綺麗でそのまま私の視線が止まる。

「楓さ。彼氏つくらないの?」

海を見つめながら話す健吾に心臓がギュっとなって体が固まった。
一番話したくない話題なのに。
もうそのまま健吾を見ていられなくて視線を砂浜に移した。顔が沈んで海を見るほど上げられない。

さっきよりも風が強くなって髪をなびかせた。

「彼氏かぁ・・・」

なんとかいつも通りの私の言葉が出るように、小さく息を吸った。

「うん。今のナンパは別にしても、楓は想ってくれる人も出会いもちゃんとあるだろ?俺はもったいないと思うけどな。周りだって恋で浮かれたり、悩んだり、結婚して幸せになってるだろう。楓もちゃんと幸せになって欲しいって思うからさ」

健吾の口から風に流されるタバコの煙を見つめながら、視線を空に移す。
いつの間にか空は雲で覆われていた。私の心にも陰を落とす。

視線を海に移すと、あれだけキラキラしていた海も今は輝きを失っているように見える。

「彼氏・・つくったほうがいいかな?」

その言葉で健吾が私の顔を見た気配を感じた。
でも私はそのまま視線を動かさない。

「うん。せっかくいい出会いがあるなら幸せになりたいと思わないか?」

「そうだよね。この年なら彼氏くらいはいないとね。でもね、一緒に食事に行ったり、飲みに行ったり、悩んだら相談したり慰めてもらったり、どこか一緒にお出かけしたりしてさ。こうやって行きたいって思ってた海に連れて行ってくれる人が私の周りにはいてくれるから、私にはそれが幸せなの。それに、私は自分で好きって思う人と付き合いたい。たとえいい出会いがあっても自分の好きな人じゃなきゃダメなの。でもちゃんと自分の幸せも考えるよ」

ここまで言ってやっと健吾の顔が見れた。
海から健吾に視線を移すと目が合って、一瞬時が止まる。

健吾は笑顔を見せた後、コーヒーを手に取り、一口飲んでまた海を見た。
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