君が好きだから嘘をつく
憂鬱な夜
朝出勤するとまずコーヒーを入れる。ミルクたっぷり、砂糖少なめで。
ゆっくり朝食が食べられなかった分を補うようにカフェオレのようなコーヒーで、外回りする前のほんのひととき。
まだ少し眠気が残り、ボーっとしながら始業時間までを過ごす。

「おはよう」

「あ、おはよ~」

いつものように挨拶をして目の前に座る健吾に、同じように挨拶をする。
そのまま健吾に視線をやると、彼は何種類かの資料をデスクの上に出し視線をこっちによこす。

「楓、今日の鷹野コーポレーションとの接待18時からで変更なしでOKだから。とりあえず17時迄に戻ってくる予定で。でも急に呼ばれた1件が遠くて、時間的にギリギリになるかもしれないから電話するよ」

「わかった。私午後早めに戻って作りたい資料があるから待ってるね。健吾が遅れそうなら先に行ってるから」

そんなこと言ったけど、正直この鷹野との接待は健吾にいてほしい。
部長の川崎さんは苦手なんだ。
なんとなくねちっこい性格で、1人ではちょっと・・・
それでもこの商談は成功させたくて、健吾と2人組んで訪問を重ねてきた。
まあ、夕方間に合うことを祈るしかない。


16時40分を過ぎたところでスマートフォンの着信音が鳴った、健吾だ。

それを見て短いため息が出る。きっと間に合わないのだ。

「もしもし」

「あ、楓ゴメン。話に時間かかちゃって今から戻るからちょっと間に合いそうもない。急いで帰るけど道が混んでいたら、ゴメン」

「わかった。私とりあえず支度して約束の時間に先に向かうから」

「楓、大丈夫か?あの部長が気になるからな・・無理するなよ」

「うん、大丈夫。じゃあ、お店でね」

あ~、大丈夫じゃない。一気に気持ちが落ちた。
何があるって訳じゃない、でもあの視線が苦手なんだ。

品定めされているようなあの目つきが嫌な気持ちにさせる。
それを健吾も分かっているからこうやって心配してくれる。

どうしよう、部長に相談して同行お願いする?それか咲季先輩に連絡してみる?いや・・・とりあえず行って健吾を待とう。

そう決心して支度をして予定通りに会社を出た。

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