君が好きだから嘘をつく
「まあいい。その様子を見ると急いで来たのだろう。今日始めて会う彼もいることだ、つまらん事を言うつもりはない。とりあえず飲め」

そんな事を言いながら本気なのか冗談なのか、コップにたっぷり日本酒を注いだ。
健吾も臆することなく口にした。
さっき部長が健吾が急いでこの場に来たのだろうと言った通り、部屋に着いた健吾の息は上がっていた。
そんな健吾がゴクゴクと日本酒を飲むことが心配になる。
でも、この接待を真剣に取り組んでいるのだろうから、私は見守るしかない。
それに、川崎部長も決して嫌な人間ではないのだ。
女性に対する接し方以外は。

あの時私の手を掴んだところへ澤田くんが邪魔したかのように入ってきたけど、怒ったりはしなかった。
だから今、健吾が出されたコップ酒も余興の1つなのかな?と思えるようになった。
コップ酒を飲み少し和んだ所で、ふと視線を感じ顔を上げると健吾と目が合った。
その視線が『大丈夫か?』と告げていることが伝わってきて、私も微笑んで『うん』と頷く。

するとその笑顔に安心したようにまた部長と飲み始めた。
場も和み滞りなく深酒の接待は終了して、川崎部長・須藤さんと挨拶を交わし別れた。

「あ~終わった。隼人悪かった、仕事途中で来させちゃったな。本当にゴメン」

心から申し訳なさそうに健吾が言う。

「澤田くん本当にありがとう。私のせいだよね、ごめんなさい。健吾にも気を使わせてごめんね」

頭を下げて謝る。すべて私のせいだから。
いい雰囲気で接待が終了できたのは2人のおかげだから。本当にありがとう、ごめんなさいしか言えない。

「2人共気にするなよ。いい接待ができたし、僕だって仕事を放り投げて来たわけじゃないしさ。お疲れ様でいいんじゃない?」

澤田くんが笑顔で言ってくれる。気を使わせないように言ってくれてるのだろう。

「じゃあさ、お疲れ会でこれから飲みに行かないか?隼人はまだ美好に行ったことないよな。いい店だから一緒に行こうぜ」

健吾が嬉しそうに澤田くんを誘った。
同期でも澤田くんと飲む機会は数える位しかなかったから、私もこのまま一緒に行きたいと思った。

「そうだね、行こうか」

「よし!行こう」

「うん!行こう行こう」

3人の気持ちが一致して、みんな上機嫌で美好に向かって歩き出した。


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