君が好きだから嘘をつく
「さあ、今日はどうする?接待じゃ飲んできたんでしょう?ご飯物がいいかい?」

おばちゃんが気遣いを見せてくれる。

「ん~、俺日本酒しか飲んでいないからビール飲みたいな。楓と隼人はどうする?」

「ちょっと、健吾あんなに日本酒飲んでいたのに大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。控えめにするから」

「じゃあ、私もビール飲む!」

「僕もビールで」

「まあ、酒豪さん達の集まりだ。じゃあ、ちょっと待っていてね」

そう言ってビールとつきだしを用意しにカウンターの奥に入って行った。
隣に座っている健吾はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外していつもの飲みのスタイルになり、目の前に座っている澤田くんはメニュー表に目を通している。

「はい!お待たせ。今日もお疲れ様ね」

おばちゃんがいつもの掛け声でビールを運んでくれる。

「ありがとう!おばちゃん、あと俺角煮と揚げだし豆腐食べたい。楓はいつもの卵焼き食べる?」

「うん、食べる。澤田くんは何がいい?」

「う~ん、肉じゃがと長芋の天ぷらがいいな」

「はいはい。じゃあ、みんな乾杯して待っていてね」

おばちゃんの声と共にみんなでジョッキを手にした。

「じゃあ、乾杯しよう。隼人の初の美好に乾杯!」

「ふふ、澤田くんに乾杯」

「乾杯」

ガチン!とみんなでジョッキで乾杯して、それぞれビールを口にした。
さっきの接待でも飲んだけど、感じる味も全然違う。
まあ、接待も仕事のうちだからしょうがないのだけどね。
だから、こうして美好で飲み直すと気持ちをリフレッシュできるんだ。

「隼人、いきなり電話して接待に合流してくれって頼んでごめんな、本当に助かったよ」

「いや、ちょうど会社に戻ったところだったからすぐに向かえてよかったよ」

「楓も時間に間に合わなくて1人にさせてごめんな。隼人に連絡した後に楓にも伝えたかったけど、もう川崎部長と須藤さんと店に入っている時間だし、隼人もすぐ行ってくれるって言ってくれたから、俺もなんとか抜け道使って走ってきたんだ。川崎部長もだいぶ酒が入っていたみたいだけど、楓大丈夫だったか?」

隣で心配そうに私の顔を覗き込んでくる健吾にどう答えるか一瞬考える。

「うん、大丈夫だったよ。川崎部長のお酒のペースは相変わらず速くて焦ったけど、澤田くんが来てくれたから」

須藤さんが席を外して2人だったことも、川崎部長に手を掴まれたことも省いて話した。
とりあえず大丈夫だったし、これだけ心配して澤田くんにまで連絡してくれた健吾にあまり話したくなかった。
でも、川崎部長に手を掴まれていたところは澤田くんに見られていたなぁって目の前の澤田くんを見ると、こっちを見るわけでもなく、おばちゃんの運んでくれた料理を食べている。

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