君が好きだから嘘をつく
自分のデスクに戻った健吾は、パソコンの電源を入れイスに座って背もたれに寄りかかった。

「はい、お疲れ様~」

咲季は健吾のデスクの上にコーヒーを置いて微笑んだ。

「ありがとうございます。今井さんも残業ですか?」

「まあね~、見積もり仕上げないといけないしさ。山中くんはいなかったからもう帰ったかと思っていたわよ~」

なんて嘘と嫌味を言ってみる。
もう、『楓が落ち込んだ顔していたんだからね!』って言ってやりたい気持ちが溢れるけど、それを抑える。

「すいません、休憩スペースに行っていました」

『知っているよ、そんなこと!』って毒づいてやりたくなる。
全く君は爽やかな顔をして残酷だな、どんな思いで楓が君達を見ていたのか考えたことないだろう。

「そっか、じゃあ今楓が帰ったけど会わなかった?」

そう言って自分が企んだ行動を開始する。

「ああ、今そこで会いました。まだ仕事あるってさっき言っていたのに、何か用事入ったって言ってましたよ」

「でしょ!何か連絡あって、誘われたみたいよ」

「えっ?誘われたって誰にですか?」

私の言葉に眉間にしわを寄せ、こっちを見て聞いてきた。
さりげなく言ったのに以外に食いついてきたことに、咲季も少し口角が上がる。
以外に捨てたもんじゃないかもしれない。そんな気持ちに少し賭けてみたくなった。

「う~ん、友達って言ってたよ。何か昨日の結婚式の2次会のビンゴの景品を今から届けに来るって連絡あって、これから会うことになったみたいね」

「友達って・・」

「男の子らしいよ。会社が近いからきっとこっちに住んでいるんだろうね。昔仲良かった友達らしいよ」

そっと山中くんの顔を見ると、目を細めて複雑な表情をしていた。そっかって顔じゃない、いろいろ考えている顔だ。
そして「あいつ?」ってすごく小さな声でつぶやいたのを聞き逃さなかった。
『あいつ?』と言った時の表情は目つきがいつもと違う。

その様子から相手の男の子を知っていることを察知できる。
楓を無理やり行かせて山中くんにそっと伝えてしまったけど、私はこれを確認したかったんだ。
意地悪な方法だけど。
後で楓に謝らなきゃ、そして山中くんの反応も伝えてあげたい。まだ諦めるなって。
そのまま私の存在は忘れたかのように山中くんはボーッと何かを考えているようだった。

『ちょっとは悩め!色男!』

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