甘き死の花、愛しき絶望


 どめぎゅっ!!


 飛び降りた少年の、体中の骨が砕けた音だった。

 それを響かせたのを最後に、耳障りな笑い声も止まる。

 次にこの場を支配したのは、世界中の音が消えてしまったかのような、死の静寂だった。

 やがてしばらく時間がたち、ようやく。

 一部始終を息を殺して見ていた人々が、我に返りだす。

「なんだ、なんだ!」

「どうした!?」

「人が落ちたぞーー!」

 一度は引いていた人の波が、人の落ちた現場に向かって、集まって来る。

 ビルは、高い。

 落ちて来た者は、確実に死んでいると誰にでも予測出来た。

 だから、偶然この事故に鉢合わせした者たちは、特に落ちた少年を助けようと思ったわけでもない。

 ただ、自分たちの身の安全を確保でき、死んだ人間が知り合いでも、顔見知りでもないならば。

 こんな飛び降り騒ぎは、退屈な日常を破壊してくれる娯楽に過ぎないのかもしれなかった。

 だから、見よ。

 『大丈夫か?』と、口では、心配そうにしていながら、近寄る者たちを。

 アスファルトで砕けた亡骸は、血の詰まった水風船のように破裂しているのか。

 それとも、もっと酷い状態になっているのかを調べるために、好奇心に突き動かされて集まっているのだ。

 ただの通行人から、野次馬に変貌した人々が、まるで砂糖に群がるアリのように、今し方飛び降りた少年を囲んだときだった。

 その、野次馬の最前列にいた人々が、うっとうめいて、一歩下がる。


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