甘き死の花、愛しき絶望
 しなやかに伸びた、明日香の長い足が地面を蹴る。

 学校と街とを繋ぐ唯一の道、車も通る大吊り橋の歩道の上を飛ぶように走るのに思わず見とれ。

 智樹が、とぼとぼと歩き出した途端、当の明日香にどやされた。

「コラ~~!
 ウサギのムッツリスケベ!
 走れってば~~!」

「へ……?
 ええええええっ!?
 誰がムッツリ!」

 ……スケベ、とは恥ずかしくて言えず。

 顔を真っ赤にしてじたばたと走り出した智樹を振り返り、明日香は、べえ、と舌を出した。

 そんな二人を、一台の立派な黒塗りの車が、追い抜いてゆく……寸前。

 車は、減速し、智樹の真横で止まると、閉ざされた窓がぴゅーとばかりに開いた。

 そして、後部座席に座っている人物が、元気に手を振った。

「明日香~~! 学校まで、乗って行かねぇ!?」

「お~~久遠寺(くおんじ)、おっはよう~~!」

 声をかけて来たのは、智樹と同じ制服を着た、城南男子生徒の久遠寺 栄(くおんじ えい)だった。

 ゆるいウェーヴのかかった茶色っぽい髪で、目元が涼しい、美丈夫だ。

 年頃の女の子だったら、誰でも見とれてしまうだろう。

 そんな彼に、明日香は、何の気負いも屈託もなく、やっぱり元気に手を振り返した。

「あはは♪
 久遠寺の車に乗って学校に行ったら面倒くさいじゃん!
 あたしは、別にいいからさ!
 乗せてくれるなら、ウサギにしてやってよ!」
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