太陽と月
主任の姿を見ただけで、体が石の様に固まった
そんな私を見つめる大きな瞳
「戸締りは?」
「あ...終りました」
「そう。お疲れ様」
どこか業務的な笑みを浮かべて、そう言った主任
そしてクルリと私に背を向けて、ゆっくりと歩き出し、この場から去ろうとした
その姿を見て、慌てて声をかける
「主任!」
息の詰まりそうな私の言葉を聞いて、顔だけ振り返った主任
大きな瞳にかかる前髪が、夜風に吹かれて揺れている
「ほ...星が見えます。私、東京で初めて見ました」
どこか中身のない言葉
でも、ただそれは主任をここに留めたかっただけ
側にいたかっただけ
私の言葉を聞いて、空を指さした私の指先をなぞる様に、顔を上に向けた主任
そして、明るすぎる夜空を見て微かに目を細めた
「――本当だ。俺も久しぶりに見た」
「東京でも星は見えるんですね」
「まぁ、少しだけどな」
上を向いたまま、そう呟いた主任
少しだけだけど、以前の様に話せている気がする