太陽と月


急に静かになった車内に微かに音楽だけが響いている



――あれ?

でも、乗った時はこんなにボリューム小さかったっけ?



そこで、もしかしてと淡い期待の様なものが生まれる


もしかして、私が寝てたからボリューム落としてくれたのかな?

起こさない様にって――



チラリと隣を盗み見ると、端正な横顔が見える

その姿に無条件に胸がいっぱいになって、勢いよく視線を前に戻した



私の都合のいい妄想だけど

本当にそうかは分からないけど

でも―――優しい主任の事だから、そうだと思う



寝ている私に気を使って、音楽を小さくしてくれたんだ



そんな些細な事すらも、嬉しくて飛び跳ねたくなる

好きが溢れて、苦しくなる




「――ここ、真っ直ぐでいいの?」

「え!? あ、はい。あそこに見えるアパートです」



意識が他の方向にいっていた私に、主任の声が届いて我に返る

勢いよく顔を上げると、いつの間にか家のすぐ側まできていた



その瞬間、一気に寂しくなる



もっと一緒にいたいな



そんな子供みたいな事を思ったけど、何も言えないまま家の前に着いた
< 205 / 353 >

この作品をシェア

pagetop