太陽と月


「お疲れ様でしたっ」



そう言って、暗に帰ってもらう様に催促する

もっと一緒にいたいけど、いればいるほど墓穴を掘りそうだ



それでも、一向に動かない車



不思議に思って、顔をゆっくり上げると

車の窓に片腕をついて、じっと私を見つめている大西主任がいた




「え? あの..主任?」

「いいよ。瀬川がアパートに入るまで見送る」

「え!? そんな悪いですっ」

「ここで何かあったら後味悪いだろ」

「うっ」



首を微かに傾げてそう言う主任の言葉に、思わず言葉が詰まる

確かに、つい最近ここらでは通り魔事件が起きている



ここからアパートの玄関まで30メートルくらいはあるけど、もしかして通り魔が潜んでいるかも


田舎と違って、ここは大都会東京

何が起こっても不思議じゃない世の中だ


そう思ったら、なんだか怖くなって、お言葉に甘える事にした




「で..では、お願いします」

「お疲れ様」

「お疲れ様です」



ぎゅっとバックを持ったまま、最後にお辞儀をして少し速足でアパートの玄関まで向かう



結局難なく辿り着いた玄関の入り口

確認する様に後ろを振り返ると、さっきと同じ様に車の窓に頬杖をついた大西主任と目が合う


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