太陽と月


痛い程の沈黙が私と主任の間に流れる

バージンロードの先で立ち止まった主任の背中は、どこか小さく見えた

まるで、何かを悔いている様に



それでもしばらくして、再び止まっていた足をゆっくりと動かしだした主任

コツンと革靴の音がチャペルに響く

そして、小さく呟いた




「そして――俺は逃げた」




どこか自分を責める様なその言い方に、思わず私もその背中を追う

コツっと一歩踏み出すごとに、大理石の床が反響する




「瀬川から自分を遠ざけた。あの時の俺にとっては、瀬川の真っ直ぐな想いが大きすぎた」

「――」

「もしかしたら...俺は、もう狂ってたのかもしれないな」




自嘲気に笑った声が、悲しそうに床に落ちる



手に入らない人を想いつづける事は、きっと身を裂かれるより辛い

溢れる想いは、誰にも届く事はなくて

そして、誰も拾ってはくれない



主任は藍原さんを想って、何度涙を流したんだろう

何度、眠れない夜を過ごしたんだろう



きっと、私なんかじゃ想像もできない様な

辛い日々だったと思う



そんな中で、きっと主任の心の歯車は

少しづつ、ずれていったんだ
< 269 / 353 >

この作品をシェア

pagetop