太陽と月
痛い程の沈黙が私と主任の間に流れる
バージンロードの先で立ち止まった主任の背中は、どこか小さく見えた
まるで、何かを悔いている様に
それでもしばらくして、再び止まっていた足をゆっくりと動かしだした主任
コツンと革靴の音がチャペルに響く
そして、小さく呟いた
「そして――俺は逃げた」
どこか自分を責める様なその言い方に、思わず私もその背中を追う
コツっと一歩踏み出すごとに、大理石の床が反響する
「瀬川から自分を遠ざけた。あの時の俺にとっては、瀬川の真っ直ぐな想いが大きすぎた」
「――」
「もしかしたら...俺は、もう狂ってたのかもしれないな」
自嘲気に笑った声が、悲しそうに床に落ちる
手に入らない人を想いつづける事は、きっと身を裂かれるより辛い
溢れる想いは、誰にも届く事はなくて
そして、誰も拾ってはくれない
主任は藍原さんを想って、何度涙を流したんだろう
何度、眠れない夜を過ごしたんだろう
きっと、私なんかじゃ想像もできない様な
辛い日々だったと思う
そんな中で、きっと主任の心の歯車は
少しづつ、ずれていったんだ