太陽と月
「でも、瀬川とパートナーを解約してから、俺の心に小さな変化が生まれ始めた」
「変化ですか?」
「始めは上司として、途中で放り投げてしまった罪悪感だと思っていた。それでも、瀬川が必死に事務所や営業で走り回っている姿を見て、助けてやりたいと思った」
「――」
「自分でも驚いた。まさか、こんな感情が芽生えるとは思わなかった」
ゆっくりと薔薇を拾い続けながら、そう言う主任
その言葉を聞いて、嬉しさが一気に胸の中に湧き上がってくる
嬉しくて、嬉しくて、目頭が熱くなった
主任は、私の事をずっと気にかけてくれていた
ずっと私の事を避けているって思ってたけど
本当は、そう思ってくれていた
少しでも、見ていてくれた
「気が付いたら、瀬川の事を目で追っていた。みんなに遅れを取らない様に必死で頑張る姿。事務所で楽しそうに先輩の話を聞く姿。どんな時も真っ直ぐで、素直で――本当に、見ていて胸が温かくなった」
「――」
「それでも、その時は自分の気持ちが分からなかった。上司としてなのか、俺自身としてなのか」
祭壇の前まで辿り着いた主任が、目の前にかかる大きな十字架を見上げた
その背中を追う様に、私もゆっくりとバージンロードを進む
「でも、瀬川が余興の練習で、お客とよく一緒にいる姿を見て正直目が離せなくなった」
「え?! もしかして、南様ですか」
「そ。その南様」
思わず問いかけた私に、悪戯っ子の様な顔で少しだけ振り返った主任
その言葉の意味をぐるぐる考えて、自分の都合のいい方向に介錯した
それって...それって
「ヤキモチ...ですか?」
「――さぁな」
恐る恐る問いかけた私に、不敵な笑みを浮かべる主任
そして、再び十字架に目をやった