太陽と月
「私もお代わり」
そんな俺の様子を見て、隣に座った女性も空いたグラスをカウンターの奥へと追いやった
その瞬間香る、どこかで嗅いだ様な香りが胸に広がる
体に電気が走った様な感覚を憶えて、思わず勢いよく女性の方に顔を向けた
――気品ある、どこか優しい香り
その香りを嗅いだ瞬間、一気に彼女の顔が甦る
いつも隣で香っていた、俺の大好きな香り
それでも、その途端に胸が熱くなって
ぶつけ様のない気持ちが、俺の胸の中で暴れ出す
ユラユラと頼りなく揺らぐ世界
今にも足元から崩れてしまいそうな程、もろい
そんな合間に、彼女の笑顔を見る
涙が出そうな程、愛しいその姿を
『大西くん』
何度も耳元で鳴る、その声は
俺を何度も壊す
「ねぇ、そんなに飲んで大丈夫?」
目頭を押さえた俺の肩に、そっと細い指が重なった
その瞬間、勢いよく女性の腕を掴んで
俺は店を出た
―――その後の事は、思い出したくもない