太陽と月
「もっと、自分の幸せを考えなさいよ」
「――」
「誰かに譲ってばっかりじゃなくってっ」
夕日に照らし出された莉奈さんの瞳に、微かに何かが光った
途端に思い出すのは、彼女の真珠の様な涙
俺ではない誰かを想って流した涙
その綺麗な涙も、全部俺のものならよかったのに
そう思った事は、今でも覚えている
何度もフラッシバックする思い出に、バカだなと思って自嘲気に笑う
「俺は、いいんですよ」
「いいって?」
「俺はいいんですよ。莉奈さん」
「――」
「もう、ずっと前にそう決めましたから」
自分で選んだ道だけど
もう、自分でもよく分からない
過ぎ去っていく季節の中で
俺はどうする事もなく今も昔も、ただ、もがき苦しんでいる
それでも、彼女を想う事を止められない
むしろ、想っていたいと願っている
最後にもう一度莉奈さんに微笑みかけてから
俺は病室までの道を歩き始めた
すると
「大西」
どこか寂しそうに聞こえた声
ゆっくりと足を止めて振り返ると