太陽と月


「私ね、花の中で桜が一番好き」




そう言った彼女は、目の前に咲く桜を愛おしそうに眺めた

その横顔に微笑みかけてから、再び視線を桜へと移す




「俺も桜が一番好きです」

「本当!?」

「一気に咲いて、一気に散っていきますけど、それが何だかいいです」

「ふふっ、何それ~」

「潔いいっていうか。それに、散り際まで綺麗なのは桜だけですから」




一斉に花開いて

一斉に散っていく



刹那の瞬間だけど、それが何だか、より綺麗に思えた

短く儚いものは、どうしてか美しく見えるものだと思う




「終わりが分かるから、尚綺麗に思えるんですかね」

「ん~そうかもしれないね。花の命は短いから、その短い中に一生分の綺麗さが詰まってるんだよ」




バルコニーの手すりに体を預けて、2人並んで桜を見下ろす

時折吹く風に、桜の花びらが舞って目の前を流れていった


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