太陽と月
新入社員
『じゃぁ、今日行くと思うからよろしくね』
久しぶりに聞いた莉奈さんの声が、受話器の向こうから聞こえる
懐かしく思って、無意識に笑みが零れた
「了解しました。楽しみにしています」
『すっごく緊張してたから、お手柔らかにね』
クスクス笑いながらそう言い残して、プツリと切られた電話
無機質なプープーという音を聞いて、なんだか少しだけ寂しくなる
――莉奈さんも悠理さんと同じ様に、結婚して会社を辞めた
いつの間にか顔見知りは少なくなって
俺は古株の中に入っていた
季節は、彼女がいなくなってから何度目かの春を迎えようとしている
変わらず俺は、あの日のまま
あの鐘の音を聞いた、あの場所から
抜け出せないでいる