太陽と月

それでも微笑んだ主任の真似をする様に、微かに微笑む

それでも、残念な事にピクピクと唇の端が痙攣しただけだった




落ち着いて、花音

大丈夫。席まで案内するだけだよ




大きく深呼吸をして、呪文の様に問いかける

それでも、グルグルと目が回りそうになって一度強く目を閉じた

すると



ふっと耳元に人の気配を感じる

それと同時に微かに頬に何かが当たった

そして




「俺がついてる」




囁く様に耳に吹き込まれた声

ゾクリと背に甘い疼きが昇る



驚いて目を開けると、私の身長に合わせて腰を折った大西主任がニッコリと笑っていた

そのすぐ後ろには、既にスタンバイを終えた新郎新婦



突然の事で茫然とする私を見て、もう一度大きな瞳を細めて優しく微笑む主任

その表情を見て、嵐の様だった心がゆっくりと落ち着いていく



そんな私の姿を見て、一度小さく頷いた主任

屈んでいた腰を元に戻して、一気に真剣な顔になった

そして、外していたインカムをもう一度耳につけて





「入ります」




そう言った
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