太陽と月

まさか





カリカリカリ…




静かな車内に響く、ペンを走らせる音

視線の端でハンドルを握っていた影が動きを止めたのが目に入る

すると




「何書いてんの?」



人懐っこい声が隣から降ってくる

それと同時に動かしていた手を止めて、それを胸に抱く




「今日大西主任がお客様に話していた事です」

「俺が話していた事?」

「営業先でどう言えばいいか、勉強してたんです」




得意気にそう言って、埋め尽くされたノートを見る

我ながら汚い字だけど、まぁ私しか見ないからいいや



もともと人より頭の回転が遅い私

すぐに言われた事も忘れてしまうという、どうしようもない頭だから

忘れない様に、こうやって何でも書き留めてる



今日も大西主任の営業先に同行させてもらって、にこやかに話す主任の言葉を一言一句漏らさずに書き留めた


< 76 / 353 >

この作品をシェア

pagetop