太陽と月
「へぇ、ちょっと見せてよ」
「え!? だっダメです!!」
手が痙攣しそうになるくらい必死で書き溜めたノートを一度撫でた瞬間、悪戯っ子の様な顔をした大西主任が運転席から手を伸ばしてきた
その瞬間、勢いよくノートを主任から遠ざけて、首を勢いよく横に振る
「なんで?」
「字汚いんです!」
「俺は気にしないけど」
「私は気にしちゃいます!!」
「でも、間違った事書いてないか――」
「大丈夫です! 一言一句間違えずに書き留めましたからっ!!」
負けじと手を伸ばす主任からノートを死守しながら叫ぶ
そんな時、運よく信号が青に変わって格闘の末ノートを守りきった
たまに垣間見る主任のこの子供みたいな悪戯っ子の顔
もしかしてこれが大西主任の本性なんじゃないかと思う
「でもさ、瀬川」
ゼイゼイと肩で息する私をクスクス笑って、大西主任が小さくそう呟く
片手で慣れた感じでハンドルを操作して
ただ真っ直ぐ前を向いている
「メモする事はすごくいい事だけどさ、誰かが言った言葉をそのまま誰かに伝えても、それは届かないぞ?」
「え?」
「お客さんによって話し方や提案も全然違うし、話してる内容も同じものは1つもない」
「――」
「俺自身のカラーと瀬川のカラーは違う。今はまだ定まってないだろうけど、今から自分のカラーを見つけていくといい」
「カラーですか?」
「そ。瀬川にしかできない提案を、結婚式を作っていけばいい。それに俺のカラーが少しでも勉強になればいいと思ってる」
横目で私をチラリと見てから、ゆっくりと口角を上げて微笑んだ主任