太陽と月



スタスタと暗闇の中で歩き続ける主任の背中を見て、ギュッと両手を握る




待て待て。花音

これは、お泊りというやつだよね



私、化粧直しも何も持ってきてないよ

いやいや。そんな事言ってる場合じゃないでしょ花音

緊急事態だよ



いやいやいや

でも例え緊急事態だとしても、女の必需品は必要だよ

それに、大西主任と同じ屋根の下なんて―――



「んふっ」



楽しいのか不安なのか分からない気持ちが渦巻いて、猛烈に気持ち悪い声が出た

急いで口に手を当てたけど、主任は既に事務所の中に入って行った



大丈夫

普通にしていよう


小さな家ならまだしも

こんな大きな会社の中だもん


緊張する事ないよ


うん



バクバクと徐々に大きくなっていく心臓を押さえて

事務所のドアを開けた


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