ピノキオとダンス
「いいんだ、その内判ると思うから。とにかくあまり時間がないから、ちょっと急がなきゃね。さあ、どれを開ける?」
どれを開ける?その質問の意味は明瞭だ。つまり、この6角形の部屋の6つのドア、どれを開けるのかって聞いているのだろう。
これは、そうか。千沙は思った。きっと夢なんだわって。こういう、夢の中でも夢であるとハッキリ感じることもたまにはある。だって、でないと彼がピノキオだなんて到底無理な話ってことになるし。大体私は晩ご飯の最中だったのよ。だからきっと、白昼夢に違いない。
彼に振られたショックというやつが、今更現れたのかと思ったのだ。だから気を失うように夢をみているんだろうって。
それならば、迷ってたって、同じじゃない?
どれかを選ばなければならなくて、そのどれもが同じように見えた場合、あれこれ悩むのは時間の無駄だわ、そう思って千沙は真っ直ぐに、自分の目の前にあるドアを指差した。
彼が頷いた。
「オーケー、千沙が選んだのはこれだ。僕は、君についていくよ」
ピノキオはドアに近づいて、いつの間にやら持っていたらしい油性の黒いマジックでドアに「1」と記入した。
「さあ、おいでよ、千沙。怖がらないで。一緒にいるから」
千沙は手を伸ばしてドアを開けた。