ピノキオとダンス
「あそこは」
そう言って、ピノキオはさっき1と描いたドアを指差す。
「千沙が学生の世界だったね。そして僕は君の弟だった。あの世界では君と僕は姉弟で、家族として生活している」
千沙は眉間に皺を寄せて唸った。
展開についていけずに少しばかり眩暈がする。彼女はよく判らないという状態が好きではなかったし、ぼーっとするのも得意ではなかった。
一体私の世界はどうなっちゃったのだろうか、そう思って、一瞬ぎゅっと目を瞑ってみた。もう一度開ける。それでも、やっぱり千沙はピノキオと手を繋いで青い6角形の部屋に立っていた。
私の世界の中心?それって一体どういうこと?ふいに彼女は泣き喚いてみたくなる。だけど、それをしたところで物事は変わらない、そんな気もして結局はそのまま立っていた。
「私は甘地千沙、でしょう?ええと・・・27歳で、今日も会社から帰ってきて・・・そして、晩ご飯を」
千沙が今までこれが自分だと思ってきた情報を口にするのを、ピノキオは黙って聞いていた。ひんやりとしたピノキオの手と繋いだ彼女の手からは体温が抜けていく気がして、千沙はそれを振り払いたくなる。
彼女は途方に暮れて、もう一度周囲を見回した。
なにもかもがよく判らないわ、そう呟いて。
「混乱は仕方ないよね。だけどもう次の世界へいこうよ、千沙。実のところ僕にはあまり時間がないものだからさ」