ピノキオとダンス
「・・・次のドアを開けるってこと?とりあえずどうしてここにいるのかの答えを教えてくれない?」
彼は口元を緩めて目を細めた。
笑っているのだろうと千沙はそれを見詰める。私のピノキオは、本当に人間になっちゃったのかしら、と思って。そんな複雑な表情が出来るのか、と驚いていた。
「答えは僕は知らないよ。それはいつだって、君の中さ」
ピノキオが促して、千沙はそのままで二つ目のドアを開けた。
「おい、あんた」
低い声が聞こえて、千沙はハッとした。それからブンブンと頭を振る。いけない、強烈な眠気に襲われてしまったけれど、まだ気をぬくには危険な状態だったのだ、そう考えて。
「・・・おい」
また低い声が聞こえた。汗で濡れて絡まった前髪の間から、千沙は檻の中に視線を飛ばした。さっきから檻の中にいる捕虜がこうして話しかけてくるのだった。それを無視しようと頑張っている間に、眠気に襲われてしまった。気をつけなければ、そう心の中で思って、彼女は気合を入れる。
檻の中から声をかけてくるのは泥と汗と血が入り混じった、かなり悲惨な状態の男だった。だけど自分だって外見は似たようなものだろう。だってここは、戦地なのだから。