ピノキオとダンス
「えらく余裕だな。勝負は目に見えてるってか?」
痛みを抑えた声で、男はそういって千沙をからかう。彼女は出来るだけ相手をしなかった。
ここ、千沙達の国から遥か南に位置する共和国で、貧困からの脱出を試みて、住民たちがレジスタンスを結成したのだった。今は戦時中で、もうこの全世界を巻き込んだ巨大な戦争は10年も続いていて、どの国もほぼ壊滅状態ではあった。
生き残りたければ軍に入るのが一番だ。そういうわけで、小さな島国出身の千沙は、15の年に連合軍に入隊した。
今は18歳。前線に入るのは4度目だ。幸運なことに、彼女はいまだ命を保てている。
「聞こえているんだろう。お前の肌や髪は俺と同じだ。出身は近いだろうから言葉も判るだろう?」
檻の中には10数人のレジスタンスの捕虜がいる。そこを、千沙と他3名で見張っているのだった。彼女はもう一度声の主へ目をやった。ベージュの肌に黒い瞳と髪の毛。鼻の形や頬骨の形も、確かに彼女のそれと似ている男だった。
千沙は小さな声で共通語で答える。
「捕虜は話すな」
男は笑い声を発して肩を竦めた。
「まだ若いんだろうに、軍に馴染んだものだな。俺はリョウという。お前の名前は何ていうんだ?」
千沙はぐっと唇をかみ締める。