ピノキオとダンス
学生の時に知り合って、気があったけどそのまま友達として別の進路を歩んだ彼とは、同窓会で再会した。お互いに仕事に情熱をかけ過ぎた結果のフリーで、既に30歳も半ばを超えていた。
周囲がそれなりに家庭を作って子供達も数人いるという状態で、会話もともすれば家庭の話になりがちだった。だからフリーの二人はお互いに苦笑しながらお酒を手にその場から離れたのだ。
めくるめくような恋だとは言いがたい。それでも、それは肌にしっとりと馴染むコットンシャツや一度手にすると手放したくはないシルクの下着のように、いつでも彼女を心地よくさせる恋だった。
さて、と声に出して彼女は立ち上がる。
彼が抱きたいと思うような女になる為に、私はバスルームへこもらなくっちゃ。そう決心して。シャワーを浴びて、肌を綺麗にして、顔色をよくしなくちゃ。それからいい匂いも必要よね、って。
そうして彼と思う存分いちゃいちゃしたら、ゆっくりと今晩の献立を考えよう。明日は勿論朝から会議があって、また忙しない一日になるはずだ。休日くらいは、ご飯はゆっくりと味わいたいのだった。
「風邪ひくわよ、いくら暖房かけてても」
そう言って彼女は彼に上着を渡す。だけど、彼はそれをそのまま椅子にかけてテレビのリモコンを探している。
「いいよ。風邪をひいたらすぐに君にキスするから」
「何て男よ!」
「これも愛でしょ?」
「それは違うと思うわ」
言い合いをしながら彼女は笑ってしまった。そしてまた、改めてゆっくりと微笑んだ。この幸せをどうにか保存しておけないものかしら、と考えて。
千沙は髪を頭の上でくくりながら、バスルームのドアを開けた。