ピノキオとダンス


「はいはーい、じゃあ、食事の時間にしましょうね~」

 彼女はそう言って、タオルケットの上から赤ん坊をゆっくりと取り上げた。この子を産んだ病院の助産師さんが確か言ってたわ、そう思って、彼女は今日も座った自分の膝の上に縦抱っこで息子を抱きしめる。

 こうしていると、首のすわりが早いって。

 縦抱っこで授乳するのは、千沙が息子を産んだ産院の方針だった。

 妊娠と出産でかなり大きくなった乳房に顔を埋めるようにして、まだ首のすわらない息子は一生懸命に母乳を飲んでいる。

 体重がやっと2500グラムを越えるかというギリギリの数値で生まれたこの子は、体が小さくて、それでも保育器に入るほどではなくて、でもやっぱり3キロを越えて生まれた子とは、最初からやれることやそのうまさが違っていたのだ、よく、千沙はそれを思い出していた。

 最初は下手で、こっちも新米の母親で悪戦苦闘したものだ。今でも毎回思い出しては彼女は苦笑していた。授乳室に母子で居残りさせられて、何とか授乳を成功させようと頑張った退院までの日々。それが、どうよ。ほら、今ではこの子、こんなに飲むのが上手だわ、そう思って誇らしげな気持ちになったりもした。

 今では失敗もせずに、上手に母乳を飲むことが出来るわって。それで、ミルクを買う必要もないなんて、経済的、母親思いじゃないのって。

 人間って不思議。だってあんなことして出来た卵から、こうやって小さな人間が生まれるのだもの。子供を産んでから、人生とかそんなものについてまで考えるようになってしまったのだった。


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