ピノキオとダンス
寝不足で、一日中他の大人とは全然喋らず終わってしまうこともあった。体はまだ出産による傷のあとがたくさんあって、いつでも眠かったし気を張っていた。
赤ん坊を抱きながらユラユラと無意識に揺れる。彼女も大きく欠伸をした。
「ああ、眠いわね。一緒に寝ちゃいましょうか」
反対側の乳首に吸い付く息子にそっと話かけて、千沙は一人で笑った。
なんて一生懸命に飲むのかしら。ほんと、全身で生きているって感じだわ、そう思った。これは、これだけは、父親にはわからないわね―――――――――――
この子が大きくなって、夫によく似てくれたら嬉しい。
そうしたら、私が好きになった若い頃の彼にそっくりになってくれるかもしれない。出来たら、私の小心なところは似て欲しくないし・・・授乳している時間、彼女はよくそんなことを考えた。
出会った頃の、まだビール腹でなかった頃の夫を思い出しては笑っていた。あなたのお父さんは、それはそれは格好良かったのよ、そんなことをおっぱいを必死に飲む息子に言ってみたりした。
10分やそこらで飲み終わると、息子を抱いて背中を優しく叩く。ゲップをうまいことさせられたら彼女は満足の微笑みを浮かべる。一仕事が終わった気分だ。そうしておいて、たまには一緒に寝てしまうこともある。
次にこの子が目覚めるまで・・・洗濯物をしなくちゃ。それと、晩ご飯の仕込みを今のうちに・・・ああ、そうだ、今日は銀行もいっておかなきゃ・・・色々考えては、それでも緩やかに襲ってくる睡魔に勝てず、彼女もとうとう赤ん坊の隣に寝転んだ。