ピノキオとダンス
「・・・ああ、やっぱりダメだわ」
春風が髪の毛を揺らして通り過ぎていく。
ふと、何かの花の香りがした。
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千沙は目を開けて、感想を正直に言うべきかでちょっと悩んだ。
「・・・どうだった?いいんだよ、何を言っても。ここには僕と君しかいないから」
判ってるよ、という風に、隣に立つ人間になったピノキオが笑った。
すこしばかり躊躇して、それから彼女はゆっくりと微笑んだ。
「・・・そうね、子供を産んだことは私は勿論ないんだけど・・・不思議だった」
そうとしか言いようがない。彼女は腕に抱いた「息子」の感覚を思い出していた。あの息子はきっと、隣のピノキオなんだろう。今までのならいでいくと当然そうなる。なぜかは知らないが、ここから見る世界は全て、私とピノキオの関係が密な世界ばかりみたいだ。
長い睫毛を伏せて、一生懸命に乳首に噛み付いていた。あの赤ちゃんの、白いおでこと桃色の頬。ああ、なんて柔らかで、可愛いの――――――――
母親になったことなどない千沙が、それを体験できたのだ。それを彼女はしっかりと理解した。ううん、何だか・・・そんなに悪い気持ちがしないわ、このへんてこな世界も。そう思って、つい口元を緩める。