ピノキオとダンス
最初は姉弟、次は捕虜と兵士、それから恋人同士で――――――――今の、母と息子。
千沙は肩を大きく上げてからパッと力を抜いて下ろした。
なんとなく、覚悟が出来たみたいだ。私、あと二つのドアを開ける、勇気が―――――――――――
「次はここにする。・・・この世界がどういう関係なのか、ピノキオは知ってるの?」
隣をチラリと見てから、自分の指したドアに視線を向けて千沙は聞いた。彼女の隣に立つ人間になったピノキオはゆっくりと首を振ったようだった。
「僕は、知らない。ただ君についていくだけだ」
「・・・何も知らないの?」
「いや、そんなことないよ。君にももう判ってるはずだけど・・・」
ピノキオが手を伸ばしてドアに「5」と書いた。
「そうなんだよ、千沙。ここは君の・・・平行世界、さ」
小さな、ピノキオの声が聞こえた。それはサラサラと風に飛ばされる砂のような細かさで、千沙の鼓膜を揺らしていった。
彼女はついと手を伸ばして、自分の真後ろのドアを開けた。