ピノキオとダンス


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「・・・友達の、部屋だったのね」

 千沙の声で、ピノキオも目を開けた。

「うん。部屋じゃないよ、千沙。これは全て平行世界だよ。君が自分の時間に戻っても、彼らの時間もそのまま同じで動いているんだから。今は・・・そこにちょっとお邪魔させてもらっているだけ」

 千沙は頷いた。そうなんだろうと判ってきた。本や、映画でよく取り上げられるのは知っている。これは所謂「パラレルワールド」と呼ばれるものなのだろう。

 この世界に無数にある他の時間。同じような世界でどれも少しずつ違っている。どれも千沙とピノキオだった。だけれども、関係性も、外見も環境も全て違うのだ。今の世界は、どこかヨーロッパの方の国のようだった。瞳の色は緑色だったし、髪も色あせた金髪をしていた。

 彼らは彼らの世界で今を生きている。

 なのに、私はどうしてそれを覗いているんだろう?そしてどうしてドアは6つしかないんだろう。千沙の頭の中は疑問で占められた。彼女は一瞬うんざりして、眉間に皺を寄せる。

「・・・6つしか、ないの?」

 声に出して言ってみた。返事を期待してのことではなかった。それよりも、彼女はピノキオの声が聞きたかったのだ。ちょっとかすれて、ちょっと高めの、人間になったピノキオの声。

 うん、と呟く声が聞こえた。

 千沙はゆっくりと彼を振り返る。その、海の底のような一面の青い部屋で、二人で突っ立って、もう随分と時間を過ごしてきたような気がしていた。


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