ピノキオとダンス
千沙はじんわりと胸のところが温度を持ったのに気付いた。
ああ、嬉しい。彼女は目を細める。まだ奇跡は途切れてなかった。ピノキオは人間でいてくれてるわ。
「このまま人間ではいられないの?」
ベッドの上で両足を放り出して座る彼に近づいた。こうしてみると、前からずっとこうだったかのようだ。私はこの男の子と一緒に暮らしていたんじゃないかって。
経験してきた、通り過ぎてきた5つの世界が重なってみえる。
恋人同士だった彼と私。気だるい二日酔いの体と頭を抱えて、微笑む彼を幸せな思いを見ていたあの「私」。その時、千沙は強烈な憧れを持った。
ああ、いいなあ!そう叫びそうだった。
だってあの「私」は彼の腕の中で―――――――――
「千沙、僕はいつだって嬉しかったんだよ」
ピノキオが口を開いた。相変わらずニコニコを笑いながら、千沙をベッドの上から見上げていた。
「君の家にいって、いつでも君といて。成長を見れた。いつも、本当に嬉しかったよ。この部屋にも・・・つれてきてくれてありがとう」
千沙はただ頷いた。何と言えばいいのか判らなかった。
人形であるピノキオを否定したいわけではなかったのだ。ただ、もっと彼と喋りたかった。あの頭を手で撫でたら、一体どんな感触だろうか。
千沙はそっとベッドへ近づく。ピノキオが、手を出した。