ピノキオとダンス


「・・・もの凄い寂しさの中で、僕を思い出してくれてありがとう。ラッキーだった、命が一瞬でももらえて、ちゃんと自分の口からそれを言えるなんて」

 ほんと、ラッキーだったな、そう呟いて彼は立ち上がる。

 千沙と同じくらいの身長の男の子。すこしばかり高い声。温度のある大きな手で、彼女の手を引っ張る。

「同じ高さで・・・踊りたかったんだ。感動だな、夢がかなった」

「踊る?」

「そう。君はよく、こうしてくれたでしょう。僕を持ち上げて、楽しく踊ってくれた。あれをちゃんとやりたいなあってずっと思っていたんだよ。どうして僕は人形なんだって悔しかった」

 確かに、よく踊ったけど。千沙はでも、と考える。私はもうちょっと君とお話ししてたいよ、ピノキオ。だけど言葉には出さなかった。

 この子が望むなら、そうしようって思ったからだった。

「いいわ」

 二人はおずおずと、部屋の中を動き出した。両手をつないで、向かい合わせになって。そのままでくるくると回ったりした。

 最初はゆっくりと、だけどその内結構なスピードで。二人は千沙の小さな部屋の中をくるくると回る。つい、口から笑い声が漏れてしまうとピノキオも一緒に笑った。

 あははは、って、声が。

 白い壁、狭い部屋、ベッドやテーブルを器用に避けて、二人は無様に、そして実に楽しくダンスを踊る。手をブンブンふりまわして、髪も腰もふりまくっていた。


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