ピノキオとダンス


 回る、体。

 回転する、部屋の景色。

 千沙の孤独は溶け出して、小さく剥がれてとろとろと消えていく。

 巨大な膜があったはずだった。彼女を覆っていた、冷たくてくらい膜が。それが今やすっかりとなくなって、彼女は二人のダンスを楽しんでいた。

 悲しいのに泣けなくて、いつでもタバコの煙で隠れようとしていた、あの感じがなくなっている。

 千沙は嬉しくて声を上げて笑った。そして、回る、回る。


 動きが鈍くなった。

 指が、かたくなった。

 繋ぐ両手から温度が消えていく。

 笑い声が聞こえなくなって、カチャンと節の部分が鳴る音がした。

 茶色のサラサラの髪の毛を見失った。


 千沙の、腰の高さまでの木製の人形、それをしっかりと抱きしめて、千沙は部屋の中で息を乱していた。


 はあはあ、と自分の呼吸を聞いていた。それと、鼓動の音も。それはさっきまでは二つあったけれど、今はもう、彼女の耳には一つ分しか聞こえなかった。

「・・・ピノキオ」

 俯いて、力を失った木製の人形を見詰める。

 木で掘られた顔、ペンキで描かれたピノキオの目や口。


 それは確かに、笑っているように思えた。




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