ピノキオとダンス
千沙は花柄のガラスコップを高い場所からゴミ箱へ落としながら言った。
そう、良かったわ。誤解が解けて。悪者呼ばわりで終わるなんて嫌だったから、すっきりした。電話をくれて、ありがとう、そう平坦な声で言った。
彼は少し焦った感じで、言葉を続ける。よかった、怒ってないんだね?じゃあ、次はいつ会おうか――――――――
コップは割れなかった。だけど、ゴミ箱の底に当たってゴン、という重い音を立てる。
千沙はそれをじっと見ながら、電話の向こうに言ったのだ。
次はないわ。私達、もう終わったんだったでしょう?
彼は驚いたようだった。だけど千沙は、優しくするのはやめようと自分で決めていた後だったのだ。だから、さよならと呟くようにいって、そのまま電話を切った。
私はもう大丈夫なのよ、そう心の中で繰り返す。あなたはもう必要ないのよ、って。
彼女は大好きだった彼との最後の電話を思い出して、台所で一人で笑う。
それから、晩ご飯を食べるためにテーブルの支度を始めた。
窓際の一番大事な椅子に座らせた木製の人形が千沙を見ている。
あの日から、彼の顔はにっこりと笑ったままだった。
千沙は人形を真っ直ぐにみて、微笑んだ。
「ピノキオ、私、上出来だったでしょう?」
「ピノキオとダンス」終わり。