ピノキオとダンス
「・・ち、さ」
ピノキオの木製の顔、そこにペンキで描かれた口から、確かに声が聞こえた。
千沙は動けない。だってピノキオが。現実的になるのよと頭を叩いてみようかと考えた。呆然としているのが判っていた。
木製の人形が動いて話しかけている。それに、どう反応したらまともなのだろうか。
「・・・・ピノキオ、話せるの?」
千沙はそっと問いかける。心のどこかで小さく、でも確実な恐怖を抱きながら、彼女は自分の人形を見詰めた。
カタン、とまた音をたてて、ピノキオは完全に千沙の方をむいた。そして一度も瞬きなどしたことのないペンキの瞳をゆっくりと瞬きさせる。
「ちさ、て、を・・・」
て、手??千沙は何とか立ち上がった。ピノキオは何かを話そうと懸命らしい。だけどもペンキの口を動かすことが出来ないようだった。描かれた顔はいつもと同じなのに、そこには悲しさとか苛立たしさみたいなものがあった。
とにかく、と小さく呟いて、千沙は何とかピノキオに近寄る。
だって、大切なこの子が・・・・何がどうなっているのかはよく判らないけど、とにかく話したいことがあるらしい、そう思って頑張ったのだった。
手・・・手をどうすればいいのだろう。
千沙は少しだけ考えて、それからゆっくりとピノキオの前に跪く。自力で立っているけど、それはやはり紛れもなく、千沙のピノキオだった。