ピノキオとダンス
ふと恐怖が消えたのを感じた。それと同時に、周りの物音も消える。
目の前のピノキオに目線の高さをあわせて、千沙は問いかける。
「手を、どうしたらいいの?」
自分の手をピノキオの前に出す。不思議なことが起きていて、それが今や完全に千沙を包んでいた。
「て、を、あわせ、る」
手をあわせる?はいはい、と千沙は呟いて、そっとピノキオの木製の手を持ち上げる。体の自由は利かないのかしら、そう考えていた。持ち上げた木製の手はさっきまでは確かになかった体温があってほんのり温かく、改めてそれに驚いていた。
かちゃん、とピノキオの節が音を立てる。固い木の指を広げて、千沙は自分の右手を合わせてみた。
手を、あわせる・・・これでいいのかしら――――――――――――
ふわりと、体が浮いた気がした。
あ。
千沙の一人暮らしの部屋の中に、ぶわっと強い風がふく。それは一瞬で部屋中の全てを巻き込んで、ぐるぐると渦をまいて小さな塊にしてしまったようだった。
ぐらりと目がまわって、千沙は怖さに目を閉じる。
自分の手が何かを掴もうと大きく回転したのを感じていた。
「大丈夫だよ、目を開けてよ、千沙」
「へ?」
言われて千沙は目を開けた。