ピノキオとダンス
海の底にいるかのような感覚がして、千沙は何度か目を瞬いた。実際のところ、海深く沈んだことなど勿論ないから、それはあくまでも感覚なのだけれど。
耳鳴りがするような、空気の圧迫を感じて千沙は周囲にゆっくりと顔をむける。見回すそこは6角形の部屋で、壁も床も天井も全てが青色に塗られていた。
その青い空間で、千沙と、木製の人形であるピノキオが―――――――――手を繋いで立っていた。
ピノキオのはずだ。今までの流れで言えば。彼女はそう考えて、それでも隣に立つものが自分の大事な人形であるとは信じられなかった。
というのは、千沙の隣に立っているのは、彼女の腰までの高さがある木製の人形などではなく、千沙と同じくらいの背丈の男の子だったからだ。いや、男の子というにはちょっと大人びすぎているかもしれない。しかし男性というには躊躇するような、無邪気で無垢な気配の残る瞳で彼が千沙を見ていた。
「あなたは、ピノキオ?」
私のピノキオ?そう聞こうとして、千沙は何故か言葉を変える。だって、あまりにもこの人は人形なんかじゃないから―――――――――
薄い茶色の髪の毛の間から、千沙をもう一度見詰めて、彼は頷いた。
「そうだね。やっと命を貰えたよ。僕の番がきたってことだね」
「すみませんが、どういう意味かが判りません」
つい丁寧な言葉になった。千沙は繋いでいる手を急に意識する。こんなにもがっちりと誰かと触れ合うのは、久しぶりだな、と彼女は思った。
くくく、と小さく笑って彼が言う。