あづさ弓
あづさ弓
昔、まだ天皇が国を治め、貴族たちの華やかな文化が栄えていた時代のことだった。
ある男が片田舎に住んでいた。この男には妻が一人いて、仲睦まじく暮らしていたけれど、京に出て働こうと考えて、女に別れを告げた。
「必ず、帰ってくるよ。お金をたくさん持って。そして君に今よりいい暮らしをさせてあげる。だから辛抱して待っていて。」
「えぇ、あなた。ずっと待っていますわ。どうか、一刻も早く帰ってきてくださいませ。どうぞお体に気をつけて。」
こうして別れを惜しんで京へ出て行ってから、早くも二年の月日が経った。女は待ちつづけていたけれども、男からは文の一通も届かなかった。
もしかしたら、もうお亡くなりになったのかしら。そんな暗い考えが頭を霞める。いいえ、縁起の悪いことを考えるのはよしましょう。あのひとは、元気で働いているわ。きっと忙しくて文を書いている暇がないのよ。そう考えてみても、不安は膨らんでいく一方だった。働き手のない家は貧しくなり、女は困り果てていた。
どうして帰ってきてくださらないの?私のことはお忘れになったの?贅沢な暮らしはできなくても、あなたがいてくだされば私は幸せでしたのに。あの時、引き止めるか、そうでなければついていってしまえばよかった。ねぇ、あなた。いったいどちらにいらっしゃるの…?
一方男は、京の貴族の家に住み込みで働いていた。心の広い主人に恵まれ、仕事にもやりがいを感じていた。妻は元気にしているだろうかと時々懐かしく、また愛おしく思い出をなぞっていた。けれど一日は田舎に住んでいたころに比べ、あまりにも目まぐるしく、忙しかった。そのため女へ出す文を書くどころか、女のことを顧みることすらまれだった。それでも女が自分をいつまでも待っているだろうと男は信じて疑わなかった。
ある男が片田舎に住んでいた。この男には妻が一人いて、仲睦まじく暮らしていたけれど、京に出て働こうと考えて、女に別れを告げた。
「必ず、帰ってくるよ。お金をたくさん持って。そして君に今よりいい暮らしをさせてあげる。だから辛抱して待っていて。」
「えぇ、あなた。ずっと待っていますわ。どうか、一刻も早く帰ってきてくださいませ。どうぞお体に気をつけて。」
こうして別れを惜しんで京へ出て行ってから、早くも二年の月日が経った。女は待ちつづけていたけれども、男からは文の一通も届かなかった。
もしかしたら、もうお亡くなりになったのかしら。そんな暗い考えが頭を霞める。いいえ、縁起の悪いことを考えるのはよしましょう。あのひとは、元気で働いているわ。きっと忙しくて文を書いている暇がないのよ。そう考えてみても、不安は膨らんでいく一方だった。働き手のない家は貧しくなり、女は困り果てていた。
どうして帰ってきてくださらないの?私のことはお忘れになったの?贅沢な暮らしはできなくても、あなたがいてくだされば私は幸せでしたのに。あの時、引き止めるか、そうでなければついていってしまえばよかった。ねぇ、あなた。いったいどちらにいらっしゃるの…?
一方男は、京の貴族の家に住み込みで働いていた。心の広い主人に恵まれ、仕事にもやりがいを感じていた。妻は元気にしているだろうかと時々懐かしく、また愛おしく思い出をなぞっていた。けれど一日は田舎に住んでいたころに比べ、あまりにも目まぐるしく、忙しかった。そのため女へ出す文を書くどころか、女のことを顧みることすらまれだった。それでも女が自分をいつまでも待っているだろうと男は信じて疑わなかった。