あづさ弓
 悲しくていても立ってもいられなくなった女は、男の後を追って走った。追いついたとして、どうするあてもない。髪は乱れ服は汚れた。それでも追い続けたが、清水のあるところで、とうとう倒れこんでしまった。
 ふと岩が目に入った。指の血でその岩に歌を書き付ける。
 『相思はで 離れぬる人を とどめかね わが身は今ぞ 消え果てぬめる』
 私の思いに応えること無く離れてしまったひとを引き止めることもできないで、私の身は今まさに消え果ててしまうようですわ。
 遠のいていく意識の中で女は問いかけた。
 もし、生まれ変わることができるならば。次の世で私は、たった一つのかけがえのない愛を貫くことができるかしら。それともまた、迷い、裏切って  大切なひとを 失ってしまう……
 女はそこで息絶えてしまった。
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