神の戯れ
不意に吹いた夜風に不気味な音を立て開くドア。
小枝を踏みながら男は家の中へと足を踏み入れる。
「反逆者だ。裏切り者だよジェアン様」
「…裏切り、者……?」
「レノリア・ヴァリエ、貴方の傍で働いていた騎士だよ。彼女は異能者と繋がっていたんだ。異能者に手を貸していたんだよ」
「……」
水槽を見つめたままの王はまるで上の空。
話を聞いているのかいないのかわからない。
呆れた男はフッと息を吐くと彼の耳元で囁いた。
「このままじゃ、貴方の望みは叶わない。彼女が存在していては、全てが台無しだ。だから……」
「…反逆者、レノリア・ヴァリエ…彼女を指名手配する……見つけ次第、抹消……今すぐ、今すぐ殺せ……!」
誘導するような物言いの男に操られるようにして言葉を紡ぐ王は突然声を荒げた。
彼の言葉にニヤリと笑う男。
思い通りに事が進み上機嫌な様子で立ち去る男の頭上では、煌めいていた筈の星々の姿は消えていた。
月明かりの無い真っ暗闇の林の中、平然と歩く男の鼻歌が不気味に響く。
男の姿は闇に溶け、林は何時もの平穏を取り戻す。