赤鼻とセイント・ミルクティ
「彼、きっと来ますよ。これを飲んで、もう少し待ってあげてください。今頃大急ぎでこちらに向かっているでしょうから」
ケーキもすぐにお持ちしますね、と胡桃さんは席を立つ。
そのままカウンターの奥へと戻っていく小さな背中を、女性は涙の引っ込んだ目でぼんやりと見つめていて。
そして胡桃さんに託されたバトンを、俺はしっかりと握りしめていた。
「……ここだけの話なんですけど、」
彼女の耳に口を寄せ、小声で囁くように。
「俺もはじめてここに来たとき、それ飲みました。店長、ぜったい嘘つきませんから、」
だから、騙されたと思って、全部飲んでみてください。
にこり。
胡桃さんの真似をして、笑いかけてみると。
ふふ、と息を漏らしてカップに口をつけた彼女の、固く張り詰めていた頬が、
「……おいしい」
微かに緩んだような気がした。