赤鼻とセイント・ミルクティ
 




それから【noce】の扉が開いたのは、3組のカップルが仲良く店を後にし、閉店の時間が近づいてきた頃だった。

すでにミルクティを飲み終えていた女性は、相変わらずひとりで彼を待ちながら、それでもさっきよりは随分と落ち着いた面持ちで座っていて。

俺たちは、カウンターから見守ることしかできなかったのだけれど。



「――チカ!」

バン、と勢いよく開け放たれた扉。その分、いつもよりも忙しく鳴り響くドアベルの音。

ロングコートに雪をくっつけながら店に入ってきたその男性は、テーブル席に女性の姿を見つけるなり、真っすぐ彼女のもとへと駆け寄った。

「悪い! 待たせて、あと……」

「ううん、大丈夫」


わたしこそごめんね。
息を切らす彼に、そう言って笑ってみせた彼女を見て。

俺と胡桃さんも、顔を見合わせて小さく笑った。


 
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